トラウマの影響とケア【PTSD】

このブログでは、こころのホームクリニック世田谷の公認心理師から、皆さんにお役に立てる事をお伝えしています。
✔️トラウマとは?
トラウマ(心的外傷)とは、心に深い傷を与える出来事や経験を指します。
たとえば、事故、災害、虐待、戦争、大切な人の喪失など、生命や安全、尊厳を脅かされるような体験がPTSD(心的外傷後ストレス障害)の原因となることがあります。
しかし、トラウマという言葉には、もう少し幅広い意味も含まれています。日常的な出来事であっても、いじめやパワハラなど本人にとって心理的負担が大きく、消化できないと感じる場合にも、トラウマとなる可能性があります。その程度や症状には個人差があります。
このようなつらい体験があると、フラッシュバックや睡眠障害、不安感など、日常生活に影響を与えるさまざまな症状が現れることがあります。
✔️トラウマが心と体に及ぼす影響
つらい体験から、身を守るために、心と体が反応します。トラウマは、脳や神経系に大きな影響を与えることが知られています。
トラウマの存在が、現在は安全な状況にもかかわらず、「危険」な状態であると心と身体に反応させてしまうためです。
以下のような症状が見られることがあります。
- フラッシュバック:意図せずその記憶を思い出す。
- 回避:トラウマを思い出させる状況や人を避ける。
- 認知や気分の変化:自分に対する価値を低く感じる。持続的に不安や怒りがある。
- 過度な警戒心や、集中困難、睡眠障害
✔️公正世界仮説とトラウマの影響
「公正世界仮説」とは、人間が世界を理解し、安心して生きるための基本的な信念です。
例えば、この信念があると、人は「良いことをすれば良い結果が得られる」「悪いことをすればその報いが来る」と考え、世界を予測可能で秩序だったものとして捉えられるようになります。
しかし、トラウマ的な体験は、この信念を根底から揺るがしてしまいます。
特に、自分が何も悪いことをしていないのに予測できない不幸に遭遇した場合、「世界は不公平だ」「自分は無価値だ」といった考えが生まれます。
トラウマは、以下の5つの考え方の領域に影響を与えるとされています。
- 安全:自分や周囲の人を安全だと感じられない。
- 信頼:他者や世界、自己に対する信頼の喪失。
- コントロール:状況をコントロールできない無力感。
- 価値:自分には価値がないと感じる。
- 親密さ:他者とのつながりを築くことが難しくなる。
これらが心の奥深くに根付きやすくなります。このため、トラウマの克服には、この信念を再構築することが重要です。
✔️トラウマをお持ちの方へのサポート
医療機関を受診し、PTSDの診断を受けた場合には、診断書を市町村に提出することにより、診療費や薬代の自己負担が1割になる制度があります。
詳細はお住まいの市町村の「自立支援医療制度」担当にお問い合わせください。
2024年度の制度変更から、公認心理師による30分のカウンセリングに対して保険適用が認められるようになりました。
まだ対応している病院は少ないのですが、かかりつけ医にご相談ください。
また、犯罪被害を受けた方への支援として、警察のカウンセリング制度やカウンセリングの公費負担制度があります。
警察の被害者支援室にお問い合わせください。
刑事/民事裁判のサポートを民間被害者支援団体により受けられる場合もあります。
ただ、こうした社会資源の活用は複雑かつ煩雑なこともあるので、都道府県ごとに配置されている犯罪支援者等支援コーディネーターまで、受けられるサポートについてご相談していただくと良いと思います。
このような社会資源を用いたサポートを受けることや、知人や周りの方の温かいサポートが回復につながる事があります。
✔️トラウマの治療
上記の症状に心当たりがある場合には、まずは医療機関での診断とトラウマの治療を受けることをおすすめします。
トラウマ治療は認知行動療法などの心理療法(カウンセリング)の有効性が証明されています。
ただ、トラウマ体験により人との関わりが怖くなることもありますし、
医療機関やカウンセリングに行くことはとても勇気のいることという方もいらっしゃると思います。
そこで、認知行動療法をベースとしたカウンセリングがどのように進んでいくのか、ここでは簡単にご紹介します。
-
心理教育
トラウマ体験が現在の感情や行動にどのように影響しているかを理解します。
-
セルフケアの実践
睡眠や食事、運動など、基本的な生活習慣を整えることで心身の安定を目指します。また、瞑想や呼吸法などのリラクゼーション法や、フラッシュバックのときに冷たいものを飲む、好きなぬいぐるみを触れるなど、「今ここに戻ってくる」練習も効果的です。
-
セルフモニタリングと認知再構成
トラウマ体験によって感じた感情(怒りや悲しみ)を表現し、感じることも大切です。その一方で、作られた感情(自責感や)を本当かどうか確かめて、別の視点で考える練習をします。考えが変わってしまった5つの領域(安全・信頼・コントロール・価値・親密さ)について、「自分と世界は安全で、信頼できて、コントロールでき、価値があり、親密になれる時もある」と再び思えるように、自分の考えを柔らかくしていくことを練習します。
-
行動の変化
今までトラウマの影響から避けていたこと(人との関わりや場所など)を避けず、回避していた状況が実は安全であることを学んでいきます。そして、以前と同じような生活ができるような練習をしていきます。また、自分が心地よい、楽しいと感じられる行動を意識的に増やしていきます。
✔️まとめ
トラウマとなる出来事は誰にでも起こり得ることであり、とてもつらい症状に悩まされることも少なくありません。
このような辛さに向かい合うことは大変困難に感じられると思いますが、精神科の受診やカウンセリングを受けることで症状が改善することが多くの研究で証明されています。
受診やカウンセリングを通して、失われた信頼感や自信を取り戻し、自分らしく生きる道を選んで頂きたいと願っています。
カウンセリングを受けることは、相手を許すことでも、トラウマになった出来事を肯定することでもありません。
ご自身の辛い症状を減らし、楽になれる時間が少しでも増えるためのものです。
未来の自分のために、勇気をもって、精神科やカウンセリングの門を叩いて頂きたいと願っています。
最後になりましたが、トラウマとなるような出来事がこの世からなくなりますように、そして被害に遭われた方が少しずつでも心の平穏を取り戻し、自身らしい人生を歩むことができますよう、心からお祈りしています。
【参考引用文献】
https://cbt.ncnp.go.jp/research_top_detail.php?@uid=DUYtVMLdhMHSQDeU
トラウマへの認知処理療法: 治療者のための包括手引き パトリシア・A・リーシック他
「こころのホームクリニック世田谷」では、トラウマやPTSDに苦しむ方への支援をしています。
「お母さんのためのカウンセリング」では、”お母さん”のカウンセリングを行っています。